「命を燃やしワインを生み出す孤高の仙人」

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ミネルヴォアの程近く、まさに秘境と言うべき山の麓に醸造所を構え、自ら開墾した畑は険しい山中にあるというポール ルイ ウジェンヌは、現当主ポール デュランとその父、祖父の名前を連ねてドメーヌ名としています。

1990年代中頃にはフランスでも日本でも一世を風靡した話題の生産者でしたが、醸造・熟成していたワインが何かしらのバクテリアに汚染されるという不幸に見舞われ、当時造っていたワインをはじめとして使用していた樽などを全量廃棄せざるをえない事態となりました。通常であれば廃業してしまうほどの危機ですが、「素晴らしいワインを生み出すには貧乏に耐えること」という哲学を持ちワイン造りに没頭していたデュラン氏は、2004年に奇跡的に再生を遂げます。とはいえ、相変わらず経営は厳しいまま、近年は心臓を病んで手術するなど苦しい日々は続きます。それでもなお、誰も踏み入れないような山の中を自力で開墾し新しいブドウを植樹していきます。命を燃やしながら真剣にワイン造りに向き合うその姿は、まさに仙人。常識という言葉からはほど遠い唯一無二の生産者です。

デュラン氏は、自宅と畑と醸造所を行き来するのみでまったく人に会うこともないといいます。ある時、約束の時間に醸造所を訪れた時のこと、どの建物が醸造所なのかわからず右往左往してしまい、近所にいた女性に所在を尋ねたことがありました。すると、「もうここにはそんな人はいない。」と言われてしまいます。さらに尋ねると、「彼は山のほうへ行ってしまってもうここにはいないんだ。」と。そこから山道を登ってはそれらしい家を探すなどあらゆる手を尽くして何とか訪問することができたのですが、当初探していた醸造所はというと、なんと道を尋ねた女性の目の前の建物!隣人にも姿を見せないとはまさに隠遁生活。醸造所に看板を出す事もなく、人生の時間全てを畑仕事とワイン造りに費やしています。

このあまりにも効率的とはいえない生き方も全ては畑とワインのため。いくら時間があってもやらねばならない事は尽きないと言います。その圧倒的なまでの仕事ぶりは、彼の畑に立った瞬間に目の当たりします。険しい山のそのまた山中に突如表れる整然と管理されたブドウ畑、おそらく誰もこの場所に畑があることを知らないのではとすら思えるほどの秘境です。四駆の車で向かうことも困難なこの場所にトラクタを入れ、几帳面とも言えるほど細部にわたるまで仕事を尽くしています。

「見たか、ここ(畑)で仕事が山のようにあるから旅行にもいけない。」
「人に会うのも話すのも君達のようにわざわざ訪ねて来てくれる人だけだ。」

せめて近所の人とは会話をしてほしいものですが、実際ワインの販売も売り込みもほとんど行っておらずフランス国内でも知る人ぞ知るワイン生産者となっています。かつては、南仏の都市であるモンペリエで、ポール ルイ ウジェンヌのワインを扱うことが人気レストランのステータスであると言われていました。一世を風靡したその時代から孤高のワインへと変貌を遂げたポール ルイ ウジェンヌ、ワインには彼の血と心が凝縮され、彼の命そのものであるとさえ言えるのです。

そんなデュラン氏も偶の来訪者は嬉しいらしく、自分が外界の事を知れない分、他の人の話しを聞きたいと熱心に話し込みます。テーブルには当然彼のワインが並び、日がどっぷりと暮れるまで語らいは続きます。

栽培・醸造に関して

ポール ルイ ウジェンヌでは、彼の父や祖父が行っていた昔ながらの栽培、醸造をかたくなに守っています。化学的な農薬や化学肥料は用いず、剪定の段階から収穫量をしっかりと落として成熟したブドウを得ます。健全で成熟したブドウだけからのみ素晴らしいワインは生まれるという考えのもと手間を惜しまずリスクをとった栽培方法を採用しています。醸造に関してはステンレス製もしくはプラスチック製のタンク等で発酵・熟成を行い、清澄や濾過(ろか)といった作業は行いません。瓶詰め時に若干の亜硫酸を加える他は人為的な添加物を加えず、あくまでブドウ本来の力強さをいかします。

まさに「自然派ワイン」の考え方から生まれるワインですが、本人はそれを否定します。いわゆる自然派の生産者はおろか他のワイン生産者ともほとんど交流がないデュラン氏にとって、自身のワインはあくまでポール ルイ ウジェンヌのワインです。他のどんなワインとも同じでない、やはり孤高のワインなのです。

彼のワインを「自然派ワイン」と呼ぶとすぐさまこう訂正されます。

「俺のワインは、自然派ワインではない 職人の仕事を尽くしたワイン、Vin Artisanale なんだ。」と

 

Cassagnole Blanc - カサニョール ブラン -
品種: マルサンヌ 50% ソーヴィニヨン ブラン 50%

マルサンヌとソーヴィニヨン ブランというあまり一般的でないブレンドは常識に囚われないポール ルイ ウジェンヌならでは。やや琥珀がかった魅惑的な色調にオリエンタルなアロマ、蜂蜜やバターなどボリュームのある香りが加わり、しっかりと厚みを感じる濃密な果実味が印象的なワインです。

Petite Cuvee Cailloutine - プティット キュヴェ カイユティーヌ -
品種: サンソー 80% ピノ ノワール 20%

南仏で多く用いられるアロマの強いサンソーを主体にこの地方では珍しいピノ ノワールをブレンドした挑戦的なセパージュのワイン。しっかりとした風味と厚みを持つサンソーにピノ ノワールが加わることによって果実味と酸のバランスが整い、力強さの中にも華やかさを感じる仕上がりになります。野生のカシスやベリーの熟した香りがあり、野草を思わせるオリエンタルなニュアンスも感じられます。

Canto Pebre - カント ペブル -
品種: カリニャン 100%

樹齢の古いカリニャンのみで造られるこのキュヴェは、リリース直後よりほのかに熟成感があり、口当たり柔らかくまろやかな味わいとなります。香りにはスパイスを思わせる香ばしいニュアンスとしっかりと熟した果実の濃密なアロマが凝縮しており、骨格のある味わいとのバランスが心地よいワインとなっています。

3 Pommes - トワ ポム -
品種: グルナッシュ 100%

近年植樹したまだ新しい樹齢のグルナッシュから造られる2007年が初ヴィンテージの新キュヴェ。非常に険しい山中に植樹されたグルナッシュは、大地のミネラル分をしっかりと吸い上げ凛とした説得力のある味わいとなります。香りや味わいこそ優しく滋味深いといった趣ですが、ある種のワインだけが備える妖艶さを持っており、ピエール オヴェルノワのプールサールやセバスチャン リフォーのピノ ノワール、ブリュノ デュシェンのラノディンなどに共通する淡さの中に深みある魅力があります。リリース直後はその妖艶さを骨格のあるタンニンが支え、しっかりとした味わいですが、時間の経過と共に本来のなめらかさが感じられるようになります。グルナッシュという品種の新しい解釈として非常に興味深いワインといえます。

109 - サン ヌフ -
品種: コー 主体、 カリニャン、 グルナッシュ

近年植樹したまだ新しい樹齢のブドウ樹から造られるワインで、2007年が初ヴィンテージ。キュヴェ名の「109(サン ヌフ)」という音は、「新しい血(サン ヌフ)」とも解釈でき、心臓病をわずらい手術するなどした当主ポール デュランが、自らの体に新たな血を受け、再びワイン造りに向かうという決意を表しています。新しい畑、新しいキュヴェ、新しい自分、信念を持ってワイン造りに向かう彼の象徴的なワインです。

コー主体のこのワインは、しっかりとした色調、厚み、骨格を備えており、スケールの大きさを感じさせてくれます。その理由は、秘境とも言うべき険しい山の中を開墾した畑で造られるブドウにあります。大地から吸い上げられた硬質なミネラルはワインに風格を与え、単なる熟度以上の複雑味をもたらします。表土僅か10cm程度という過酷な環境ながらしっかりと根を伸ばしたブドウ樹は、僅かな水分を探して地中を進み、様々な成分をブドウに取り込んで、エキス分の豊かな複雑なワインを生み出します。

Pierre des Sons - ピエール デ ソン -
品種: ピノ ノワール 100%

ポール ルイ ウジェンヌの伝説を作った幻のワイン。ラングドックのこの地でピノ ノワール100%というのは非常に珍しいですが、その味わいもまた驚きを隠せません。しっかりとした果実味と凝縮感があり、複雑で濃密な果実の芳香が風格を感じさせます。若い内はやや粗野な一面もありますが、熟成すると艶かしさを感じられる魅惑的な風味へと変貌します。日照に恵まれて乾燥したこの地域では、ブドウは高い熟度を得ますが、このピノ ノワールは標高の高い畑で栽培されているため、芯のある綿密な味わいとなります。乾いた大地の奥底から僅かな水分とミネラルを吸い上げ、スケール感のある唯一無二のワインとなります。